Search Console の「ページ」CSVを見て、「順位は取れているのにクリックされていない記事」を機械的に見つけたいと思いました。
考え方は単純です。掲載順位ごとの平均CTR(期待CTR)と、自分の実CTRを比べる。 差が大きいページは、順位のわりにクリックされていない = タイトルやディスクリプションで 損をしている可能性がある。
取りこぼしクリック数 = 表示回数 × max(0, 期待CTR − 実CTR)
問題は「期待CTR」に何を置くかです。ここで2回つまずいたので、その記録を残します。
つまずき1: よく引用されているCTRデータは日本向けではない
「掲載順位 CTR」で検索すると、1位のCTRは 39.8% という数字が最もよく出てきます。出典は FirstPageSage です。
これをそのまま使うと、ほぼ全てのページが「取りこぼしている」判定になります。個人ブログで1位を取っても、CTRが39.8%に届くことはめったにありません。
理由は、このデータが米国B2Bに偏った標本だからです。BtoBの指名検索に近いクエリが多く含まれていれば、1位のCTRは当然高く出ます。 日本語の一般的な情報検索に当てると数値が2〜3倍にインフレします。
日本語の「最新版」を謳う記事をいくつも読みましたが、中身はほぼ全部この FirstPageSage の再掲でした。
代わりに使ったもの
seoClarity の「2021 CTR Study」の日本市場データを使いました。1位が 13.94% です。7,500億回の表示と300億回のクリックを対象にした調査で、 市場ごとに分けて集計されているため日本のデータが独立して取れます。
「2021年は古い」と当然思います。私もそう思ったので探しました。結果はこうです。
| 候補 | 使えなかった理由 |
|---|---|
| 日本語の「最新CTRデータ」記事群 | ほぼ全部 FirstPageSage の再掲。上と同じ罠 |
| 国内SEO会社の自社実測データ | 1サイト・852キーワード。手法の開示がなく、1位が1か月で41.0%→32.4%と9pt動く |
| Advanced Web Ranking | 毎月更新でGSCの実データだが、US/UK/豪州のみ。日本が無い |
| seoClarity の新版 | 2021年以降アップデートされていない |
つまり、より新しくて信頼できる日本市場のCTRデータは存在しません。規模の面でも、今もこれが唯一です。
つまずき2: 本当の問題は年号ではなかった
2021年のデータを使うことの問題は「古いから」ではありません。AI Overview(AIによる要約)が出る前の期待値と、出た後の実測値を比べてしまうことです。
補正なしで比べると、すべてのページで取りこぼしを過大に見積もります。実CTRが下がっているのは記事が悪いからではなく、検索結果の上にAIの回答が挟まったから かもしれない。それを「タイトルが悪い」と診断するのは誤診です。
補正の係数をどう決めたか
Ahrefs が2025年12月時点のデータを公開しています(AI Overviews reduce clicks)。30万キーワードを対象に、AI Overviewが出ると1位のCTRが58%減るという結果です。
同じ調査の2025年3月時点では34.5%減でした。1年で減少幅がほぼ倍になっています。変化が速い領域なので、数字を固定して放置するのは危険です。
AI Overviewの出現率は43〜60%と報告されています。幅があるので中央付近の0.50を採りました。
補正係数 = 1 − (出現率 × CTR減少率)
= 1 − (0.50 × 0.58)
= 0.71期待CTRを 71% に落として使います。
出典そのままの値と、補正後の値を分けて持つ
混ぜて1つの関数にすると、後から「これは調査値なのか補正値なのか」が分からなくなります。実際にこれをやらかして、説明ページに「調査そのままの値」という列を出しながら 加工後の数字を表示していたことに、後から気づきました。
つまずき3: 生データをそのまま使うと順位と期待CTRが逆転する
掲載順位ごとのCTRは、単調に下がりません。13位で1.07%まで下がったあと、 19位では2.91%に上がります。
原因は検索結果の2ページ目です。2ページ目まで進む人は目的が明確なので、 そこにある結果はクリックされやすい。だから10位台後半でCTRが持ち上がります。
これをそのまま期待CTRに使うと、こうなります。
16位のページ: 期待CTR 2.5% / 実CTR 1.0% → 取りこぼし大 10位のページ: 期待CTR 1.5% / 実CTR 1.0% → 取りこぼし小 → 「順位を下げたほうが、取りこぼし判定が大きくなる」
順位を落とせばスコアが上がる指標は、優先順位づけに使えません。13位以下は下限の1.00%に固定しました。そして「順位が下がるほど期待CTRが上がる区間が無い」ことをテストで固定しています。
こういう「気づかずに直すと壊れる」箇所は、コメントで理由を書いてもいずれ消されます。テストにしておくと、直そうとした人の手元で落ちます。
この方法の限界
使いながら分かった限界を書いておきます。この手法は粗い道具です。
- 表示回数が少ないページには使えません。実CTRは表示回数が小さいと偶然で大きく振れます。17回表示で0クリックだったとして、 それは「タイトルが悪い」証拠にはなりません。自分のサイトで試したときも、 期間が短いと全ページが除外されて何も出ませんでした
- AI Overviewの日本固有の出現率は分かりません。43〜60%という数字はほぼ米国ベースです
- 58%減は1位の数字で、順位別の内訳は確認できていません
- 掲載順位はクエリ横断の平均値です。そのページがAI Overviewに どれだけ晒されているかは原理的に分かりません
- 期待CTRを下回る原因は「タイトルが悪い」だけではありません。ブランド想起・季節性・ 検索結果の構成など、CSVから見えない要因があります
- 逆に、指名検索の多いページは実CTRが期待を大きく超えます(1位で60%を超えることもある)。 だから
max(0, ...)を挟んでマイナスを潰しています
それでも、「次に直す記事を勘で決める」よりは順番がつくと思っています。 それが目的の全部です。